四つの川が集まるプハラの町の警察署長の主人公で、その警察のいちばん大事な仕事は毒もみ、つまり毒を使って川や沼の魚をとることを取締ることでした。そこへカワウソに似た新しい署長が着任しますが、洪水でできた沼での毒もみは続き、とうとう犯人がわかります。何と署長自身が犯人で、自ら認め死刑になります。首を切られる時に笑ってこういいます。「あっ面白かった。おれはもう毒もみのことときたら、全く夢中なんだ。いよいよこんどは地獄で毒もみをやるかな。」で賢治は「みんなはすっかり感服しました。」と話を結んでいます。
プハラは現在のウズベキスタンのブハラをもじったものと思われますが、四つの川(北上川・猿ヶ石川・瀬川・豊沢川)の合流する花巻がモデルで、水の中で死ぬことを「エップカップ」というなどと、この地方の方言も使っています。賢治の時代の花巻警察署は吹張町の南端、上町通りの西の突き当たりにありました。この警察署の南西方が鍛冶町で、賢治の母イチさんの実家もありました。
賢治は豊沢川下流が氾濫してできた沼で魚をとったことがあったか、見聞きしたことをモチーフにしたのでしょう。川での毒もみは「風の又三郎」にも出てきますし、賢治は子ども達の遊びの一つとして、強い関心を持っていました。この話はまた、絶滅しそうなカワウソを賢治が哀れに思って書いた物語かもしれません。
当時の「花巻警察署」 『写真集明治・大正・昭和花巻』より |
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賢治は花巻警察署に来た新任巡査が何か不都合をして首を切られた(つまり免職させられた)ことに同情して、何くれと助けてやったことがあったそうです。
若い部下の話を署長に置きかえたのは前の頁の「税務署長の冒険」の例と似ていますね。