稗貫農学校付近から小舟渡方面に歩いてゆく賢治が、途中で眼にしたものをスケッチ風に書いたものです。近道するために危険な岩手軽便鉄道の瀬川にかかる鉄橋を渡ります。花巻の景色や人々の姿が生き生きと描かれていますが、話のなかの鉄橋も線路ももうありませんし、賢治が道であった女性の話す次のような美しい方言もほとんど聞かれなくなりました。「まんつ見申したよだど思ったへば、豊沢小路(としゃこうじ)のあぃなさんでお出やんすた。おまめしござんしたすか」
瀬川鉄橋を渡る岩手軽便鉄道車両(宮沢信一郎 撮影「岩手軽便鉄道」林風舎) |
岩手軽便鉄道 瀬川の鉄橋跡の石標 |
この「山地の稜」は、初期短編と呼ばれる小品の一つで童話ではありません。題の「山地の稜」は遠くに見える薬師岳の稜線についても書いているところからつけられたものです。