これもまた、御旅屋を舞台にしたと考えられる作品です。
ペムペルとネリという二人きりで生活している兄妹の物語で、町に「大きな灰色の脚」をもった家のような生き物が来ており、それを見たくて天幕に行ってみると黄色いもの(実はお金)を渡して入場しているのがわかりました。そこで二人は家の黄色いトマトをもってゆきますが、もちろん入ることはできず、トマトを投げつけられて泣きながら帰るという可哀想な話です。
この家のような生き物は象で、花巻のお旅屋でサーカス小屋の象が人気を集めたことがあったのを踏まえた物語でしょう。幼いころ御旅屋に行った想い出と結びついて生まれた作品ではないでしょうか。
賢治は、お祭りが好きで、黄色という色も好んでいました。花巻まつりの山車につける大きな造花は、赤と白だけだったのですが、これに黄色いものを加えるようになったのは、賢治のアイディアによる、といわれております。
大正13年の花巻祭りの吹張町の山車 |
黄色い造花もある花巻まつりの山車 「写真提供:花巻観光協会」 |
二人きりの兄妹という設定は「グスコーブドリの伝記」にも出てきますね。賢治は妹トシと過ごした幼年時代を思いつつ作品にしたのでしょう。賢治は羅須地人協会時代、トマトを自ら栽培していました。
この話は、剥製のハチドリが昔見たことを語ったという設定です。すると、賢治は花巻に南アメリカを重ねて物語を作ったのですね。