「山の神の秋の祭りの晩でした。亮二はあたらしい水色のしごきをしめて、それに十五銭もらって、お旅屋(おたびや)にでかけました。」と童話「祭の晩」は始まります。亮二は「空気獣」という見世物を見たあと、山男が団子の代金を払えずにどなられている所にいあわせ、金を渡して助けました。その晩、亮二の家の前には山男が礼として持ってきた薪や栗が沢山置かれていたのでした。
この話は賢治の家の近くの東町にある御旅屋(おたびや)という広場がモデルでしょう。祭りの間、御輿すなわち御神体が神社を出て、この広場を宿とするのです。そこに露店や見世物小屋も集り、にぎわいます。山の神のお祭りとしたのは、山男を登場させるための伏線で、物語のお旅屋は多くの掛小屋のある所からみて、東町のそれがモデルでしょう。
賢治は山男の出る作品をいくつか書いていますが、素朴で、たくまざるユーモアのある魅力的なキャラクターとして描いています。山男もどこかデクノボー的なのです。
当時御旅屋の前には、朝日座(劇場)があった。 |
御旅屋(昔に較べ狭くなっている) |
御旅屋は全国的には「お旅所(おたびしょ)」と呼ばれることが多いのですが、どこでも都市化が進むと消えてしまうことが多く、ぜひ花巻の御旅屋は残してもらいたいものです。