「正徧知はあしたの朝の七時ごろヒームキャの河をおわたりになってこの町に入らっしゃるさうだ。」とハームキャの城の人々が語り、その正徧知(悟りをひらいた方・しょうへんち)を迎えるために城の王さまは百合を捧げようと大臣に用意を命じます。大臣は子どもが百合を持っているのをみて、買おうとしますが、子どもは自ら正徧知に四又の百合を捧げるという話です。
ハームキャが花巻、ヒームキャの河は北上川がモデルです。正徧知が東から来られるというのは、遠野に住んでいた旧城主南部氏の末裔である日実上人が、花巻に教えを広めたことと、ブッダがかつてインドで河を渡り、王に教えを説いたこととを重ねあわせたものです。ハームキャ城は花巻城址の位置にあるとイメージしたのでしょう。
花巻城址(復元された西御門) |
花巻城址のお濠 |
花巻城本丸跡から北方の眺望 |
賢治は花巻に日蓮宗の法華堂を建てるための勧進文を書いていますが、そこには日蓮在世時からの遠野南部家との深い縁や日実上人のことなども書かれており、文中に「正徧知」という言葉も出てきます。