「夏休みの十五日の農場実習の間に、私どもがイギリス海岸とあだ名をつけて二日か三日ごと、仕事が一きりつくたびに、よく遊びにいった所がありました。」とはじまるのが「イギリス海岸」という題の文ですが、今では、あだ名のはずのこの名が、すっかり有名になって文科省の名勝になってしまい、その名で通るようになりました。
イギリスのドーバー海峡の白い岩と同じ岩石だからという人がいますが、実は向こうの風景をミニチュアにすると似ているというだけで、岩の種類も時代も全く違います。
この文には賢治と生徒たちが地質・地形や化石を調べたり、泳いだり、騎兵の演習をみたりした様子が、いきいきと描かれています。
イギリス海岸「写真提供:花巻観光協会」 |
イギリス海岸遊歩道と石標 |
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教壇に立つ賢治が説明しているのは花巻の地質断面図 |
賢治が発見したクルミの化石(オオバタクルミ:尖ったギザギザがある。) (バタグルミ 林風舎) |
イギリスの海岸に似ているばかりではなく、「スヰーデンの峡湾」すなわちフィヨルドに似ているとか、化石を発掘する様子はイタリアのポンペイのようだと書いています。賢治と生徒たちは、世界のあちこちに見立てて、この河岸の景観を楽しんだのです。「ある農学生の日誌」にもこの河岸が登場します。