賢治作品と花巻の街

カムパネルラのお父さんのモデル

『銀河鉄道の夜』

・・・・・前文略

「ああすぐみんな来た。カムパネルラのお父さんも来た。けれども見附からないんだ。ザネリはうちへ連れられてった。」ジョバンニはみんなの居るそっちの方へ行きました。そこに学生たち町の人たちに囲まれて青じろい尖ったあごをしたカムパネルラのお父さんが黒い服を着てまっすぐに立って右手に持った時計をじっと見つめていたのです。

・・・・・以下略

「ぼくずいぶん泳いだぞ。」と云いながらカムパネルラが出て来るか或いはカムパネルラがどこかの人の知らない洲にでも着いて立っていて誰かの来るのを待っているかというような気がして仕方ないらしいのでした。けれども俄かにカムパネルラのお父さんがきっぱり云いました。

「もう駄目です。落ちてから四十五分たちましたから。」

 ジョバンニは思わずかけよって博士の前に立って、ぼくはカムパネルラの行った方を知っていますぼくはカムパネルラといっしょに歩いていたのですと云おうとしましたがもうのどがつまって何とも云えませんでした。すると博士はジョバンニが挨拶に来たとでも思ったものですか、しばらくしげしげジョバンニを見ていましたが
「あなたはジョバンニさんでしたね。どうも今晩はありがとう。」と叮ねいに云いました。

 ジョバンニは何も云えずにただおじぎをしました。

「あなたのお父さんはもう帰っていますか。」博士は堅く時計を握ったまままたききました。

「いいえ。」ジョバンニはかすかに頭をふりました。

・・・以下略

カムパネルラのお父さん(博士)のモデルは[菊池 捍(まもる)]

菊池 捍 カンパネルラの捜索現場のモデル「朝日橋」から市内にまっすぐ5分程あるくと「菊池 捍(まもる)」邸が左側にあります。

「もう駄目です。落ちてから四十五分たちましたから。」

 あまり気にしないで読んでしまいますが、「四十五分」これはどこか不自然な話です。 1時間とか三十分とかであれば自然ですが、「四十五分」ということはどうなのでしょう。あまりにも生真面目で時間にこだわりを持った性格が浮き彫りになります。

 「黒ぶだう」のベチュラ公爵のモデルでもある[菊池 捍]は、スケジュールや時間にこだわるということで知られていたそうです。ラジオの時報を聞いて毎回時計を合わせるエピソードや。花巻に帰って来てからも時間厳守にこだわり遅刻者にも厳しかったとこなどが伝えられています。

 また、本人も身長が高く多方面な知識を持ち農業高校の校長等のも歴任していることから、博士としてモデルにぴったりです。[菊池 捍(まもる)]は、みんなからは捍(かん)さんとも飛べれていましたから[カムパネルラ]の名づけに関係したかもしれません。賢治は、時計を持つカンパネルラのお父さんに時間に細かい花巻出身の菊池捍を重ね合わせたものと思います。

(米地 文夫;ハーナムキヤ景観研究所)

銀河鉄道のイラスト
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